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2024年06月30日

行政区名、縦書きの不思議

先日、復活した「上京區 平野宮本町」の仁丹町名表示板は、行政区名が縦書きなので非常に珍しいと紹介しました。これで「上京區鷹野十二坊町」と並び、現役が2枚となりました。

行政区名、縦書きの不思議


この縦書きについて、ちょっと深掘りしてみましょう。

今までに確認できた縦書きは12枚あります。琺瑯「仁丹」の確認枚数1,560枚からするとわずか0.8%という希少なものです。

そもそも、京都市の中心部は「行政区名+通り名+町名」という、非常に長~い住所表記です。それに対応するため、長さ91cmという大きな琺瑯看板を用意し、さらに行政区名を小さく横書きすることで、この長い住所を書くスペースを確保したと考えられます。実際、この「行政区名+通り名+町名」のパターンが最大派閥であり、1,183枚、全体の76%を占めます。まさに標準仕様とも言えるでしょう。そして、このように行政区名を小さく横書きにすることが、書式としてのルールだったのでしょう。

ところが、“碁盤の目”を外れた周辺部では通り名を使わない大字小字のような一般的な住所となり、琺瑯看板のスペースに余裕が生まれます。それでも、行政区名は小さく横書きされます。ルールだから仕方がないといったところでしょう。次の写真のようにです。

行政区名、縦書きの不思議


 紫野東藤ノ森町 ➡ 現在は北区
 浄土寺南田町  ➡ 現在は左京区
 壬生中川町   ➡ 現在は中京区
 朱雀内畑町   ➡ 現在も下京区

紫野東藤ノ森町は上京区でよく見られる、ちょっと細い線で書いた達筆な美しい字です。それに対して他の3枚は太い線で力強く書かれています。白の余白部分も配慮して、全体のバランスを意識しての対応なのでしょう。

しかしながら、スペースがあるのだから行政区名も縦に大きく書けば見易くていいじゃないか、臨機応変に対応したらいいじゃないか、と不満を募らせていた職人さんがいたかもしれません。そして、ついにそれを実行に移してしまった。それがレアな縦書き「仁丹」の誕生秘話ではないのか?と妄想を抱いています。果たして、正解なのかどうか確かめようはありませんが。そこで、縦書きに何か共通点が見出せるのかどうか、挑戦してみました。

行政区名、縦書きの不思議

今まで確認できた縦書きは、次のようなものです。

<北区 衣笠学区>

行政区名、縦書きの不思議

一番右の紅梅町は、「『京都の記録』第2巻 町のかたち、1974年、時事通信社」からの引用です。この他にも写真は割愛しますが、「上京區衣笠南道町」が2016年のヤフーオークションに出ています。この衣笠南道町は、現在存在しませんが衣笠荒見町付近です。衣笠学区では琺瑯「仁丹」は4枚発見されていますが、いずれも行政区名は縦書きとなっています。そして、衣笠南道町も含めて、いずれも同じ職人さんが書いたと見て違和感はありません。


<北区 楽只学区>

只楽(らくし)学区では次の琺瑯「仁丹」2枚を確認しています。いずれも現在は「紫野十二坊町」です。

行政区名、縦書きの不思議


しかし、同じ十二坊町でも行政区名が横書きと縦書きが混在しています。右の横書きの方は、文字配置のバランスに難があるのがありありですね。筆使いも明らかに違うし、「鷹」の字も違っているしと、これは別の職人さんの手によるものと見てよさそうです。


<左京区 下鴨学区>

下鴨学区の琺瑯「仁丹」は次の4枚を確認しています。宮崎町が1枚、松之木町が3枚です。
いずれも縦書きばかりです。

行政区名、縦書きの不思議

そして、この4枚、どう見ても同じ職人さんが書いていますよね。残念ながらすべて姿を消してしまっていますが。


<左京区 葵学区>

葵学区については琺瑯「仁丹」は合計4枚確認しています。そのうち3枚、次の膳部町、芝本町、半木町についてが縦書きです。

行政区名、縦書きの不思議

左の膳部町の写真は水谷憲司氏撮影(林宏祐氏所蔵・提供)、中央は森下仁丹株式会社が保管中、右は京都学 歴彩館で保管されています。これら3枚も同じ職人さんの手によるものと見てよさそうです。

そして、葵学区残りの1枚はと言うとこれです。

行政区名、縦書きの不思議

でも、これはあまりにもイレギュラー。行政区名にはあり得ない「上賀茂」とあります。もしかしたらオリジナルのものを塗りつぶして上書きした可能性も無きにしも非ず、謎です。すでに消滅しているので確かめようもありませんが、今回の考察では対象外かなと思います。

行政区名、縦書きの不思議


さて、以上の縦書き12枚、いかがでしょうか? まさに筆跡鑑定の世界ですね。少し細い線だけど、まるで書道のお手本のように素直で大きく伸び伸びと、しかも全体の配置のバランスも良い。まだまだ母数が少ないのですが、現時点では同じひとりの職人さんが書いたように見えます。また、特定の学区に偏っていることも興味深いところです。

仁丹町名表示板に関する謎はいくつかは解けてきたと思いますが、まだまだ素朴な疑問は残ります。そもそもどこで作ったのか? 大阪か京都か? 1カ所なのか、複数の工場なのか? 書き手の職人さんは何人ぐらいいたのだろうか? そして、どのような要領で設置を進めていったのか? などなど、いつ解けるかも分からない謎はまだまだあるものです。
~shimo-chan~


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この記事へのコメント
こんばんは♪昔と行政区が違うのですね。初めて知りました。旧漢字もあって古を感じますね。
かつらえいじ
Posted by guildguild at 2024年06月30日 20:30
いつも貴重な情報収集有難う御座います。楽しみにしております。データーにも経年により新情報も出てくると思いますが、文字数4文字が最小ですが、須年前のヤフオクで黒谷町、3文字が出されていたことは、ご承知のこととぞんじますが、以前投稿したことがありますが、北白川空白地域に上京区北白川追分町が存在していました。面白い情報でしょ。
Posted by やっくん at 2024年08月05日 23:10
やっくんさん、コメントありがとうございます。

そうですね、2018年に「上京区 黒谷町」が出ていましたね。
確かに、最小文字数を4文字としていましたが、これは3文字。
記録更新ですね。過去の記事は更新できておりませんが。
Posted by shimo-chan at 2024年08月06日 18:31
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